灯台下暗し

1934年、東京の小さな工場で、野田琺瑯は生まれた。
当時作っていたのは、輸出用のボウルや皿、コップ。海の向こうの誰かの台所を想像しながら、鉄にガラス質を焼き付けていく。そういう仕事だったらしい。
それから90年。戦争で工場を失い、再び立ち上がり、いつしか野田琺瑯は「日本の台所の定番」と呼ばれるようになった。ホワイトシリーズは2013年にグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞し、今も多くの料理家や暮らし好きの人たちに選ばれ続けている。
けれど、ふと思う。
もともと世界を見ていたはずのこの道具が、今は国内の、しかもある種の「暮らし上手」のための道具として、静かに閉じてしまっているのではないか。灯台下暗し、という言葉がこれほど似合うブランドも少ない。
鉄とガラスという、普遍語

琺瑯という技術は、そんなに新しいものではない。鉄とガラス、本来なら相容れないはずの二つの素材を、高温で結びつける。エジプトの時代から、人はこの技術を知っていたと言われている。
サビやすい鉄と、割れやすいガラス。弱さ同士を組み合わせて、一つの強さを作る。この発想自体が、実はとても普遍的なものだと思う。どこかの国の、どこかの文化に属する技術ではない。人類が長い時間をかけて磨いてきた、いわば静かな共通言語のようなものだ。
だから野田琺瑯を「日本の伝統工芸」という枠だけで語るのは、少しもったいない気がしている。これは日本語であると同時に、もっと広い言葉でもあるはずだから。
まだ、手を伸ばせていない人たちへ

野田琺瑯には、ずっと「料理上手の道具」というイメージがついてまわっている。
取材で料理家の自宅を訪れると、たいてい野田琺瑯が冷蔵庫に整然と並んでいる。常備菜づくりが得意な人、暮らしを丁寧に営んでいる人。そういう人たちの必需品、というイメージだ。
けれどそのイメージこそが、実は静かな壁になっているのではないか。
「憧れてはいるけれど、自分にはまだ早い」
「一人暮らしなのに、大袈裟な気がする」
「料理があまり得意じゃないから」
そうやって、手前で立ち止まってしまう人たちがいる。冷蔵庫に並ぶ白い琺瑯の写真を見て、いいなと思いながら、それでもカートには入れない。そういう人を、私は何人も知っている気がする。
でも、順番は逆なのだと思う。
料理が上手だから野田琺瑯を持つのではない。野田琺瑯を持つことで、常備菜を作る習慣が生まれ、道具を大切に扱う感覚が育ち、気づけば暮らし方そのものが少しずつ変わっていく。上手な人のための道具ではなく、人を少しずつ育てていく道具なのだ。
同じ壁が、海の向こうにもある

国内でさえ、「特別な人の道具」という誤解が壁になっている。だとすれば、海外では、その壁はもっと厚いのではないだろうか。
「日本の職人技」という言葉は、時に敬意であると同時に、距離を生む言葉でもある。素晴らしいけれど、自分には手が届かない、遠い世界のもの。そう感じさせてしまう瞬間が、きっとある。
けれど、海外には海外の入り口がある。
和食への憧れ。出汁をとる暮らし、常備菜を仕込む朝、丁寧な食卓への憧れ。ここ数年、そうした「日本の生活様式」そのものへの関心は、静かに、しかし確実に広がっている。
野田琺瑯は、和食を作るための道具ではない。和食的な暮らし方を、そのまま体現している道具なのだと思う。琺瑯のバットで野菜を仕込み、丁寧に食卓を整える。その行為自体が、憧れの朝の台所を、自分のキッチンに小さく再現することになる。
北欧の静かな部屋にも、ドイツの一生モノを大切にする暮らしにも、この白は、きっと馴染む。断定はできない。けれど、そうではないだろうか、と思わずにはいられない。
おまけの、白い道具たち

ここから先は、少しだけ実用的な話。
無骨余白が選んだのは、野田琺瑯のホワイトシリーズを中心とした31点。装飾のない、ただ白いだけの道具たちを、7つのまとまりに分けて並べる。
※価格は変動する場合がある。「参考価格」と記載した商品は、販売ページ本体から価格を直接確認できなかったため、野田琺瑯公式サイトの掲載価格を参考として記載している。購入前に各リンク先で最新価格をご確認いただきたい。
レクタングル——浅型・深型
レクタングルは、常備菜を仕込む台所の主役になる。浅型は下ごしらえの効率を、深型は汁気のある料理の受け皿を担う。
レクタングル浅型 S
浅さ4.4cmが、冷凍庫の省スペースと仕込みの効率を両立させる。下味をつけた肉や魚を平らに並べ、そのまま凍らせる。800mlの底面積が、日々の仕込みを支える。
レクタングル浅型 M
浅型シリーズのひと回り大きなサイズ。25.2×18.8cmの広い底面が、下味の仕込みや作り置きの品数を増やす。1400mlの容量は、冷凍から解凍まで一枚の板のように働く。
レクタングル浅型 L
228×290mm、容量2.4L。グラタン4〜5人前、鍋の前の野菜ストックにちょうどいい浅さ。浅型のS・Mと並べれば、下ごしらえの工程がそのまま棚に並ぶ。
レクタングル深型 S
深さ5.7cmが、汁気のある料理を受け止める。500mlは、味噌汁の作り置きやぬか床の一部を分けて漬け込む量。琺瑯の壁は、酸にも塩分にも負けない。
レクタングル深型 M
深型シリーズのひと回り大きなサイズ。850mlは、カレーやスープのストック、漬け込みの本数を増やしたい時の容量。白い壁が、庫内でも清潔な印象を保つ。
レクタングル深型 L
155×228mm、容量1.5L。1Lの牛乳から仕込むヨーグルトの深さ。深型シリーズ、S・Mに続く一回り大きなサイズ。
レクタングル深型 LL
160×255mm、容量3.5L。米2kg、味噌3kgを仕込める、深型シリーズ最大の器。一夜漬けも、糖漬けも。時間をかける仕込みを、この一つで受け止める。
スクウェア——S・M・L
四角い形は、冷蔵庫の中で無駄なく並ぶ。サイズごとに使い分ければ、それだけで棚の景色が整っていく。
スクウェア S
白一色の琺瑯が、余白という思想をそのまま形にする。320mlは、常備菜や薬味をひと仕込み分だけ留めておく容量。直火にかけられる強さを持ちながら、主張しない佇まいを崩さない。
スクウェア M
800mlという容量が、スクウェアシリーズの基準点になる。作り置きのまとめ仕込みから、冷蔵庫内の定位置まで、暮らしの中心に据えやすいサイズ。白の琺瑯が、庫内の乱雑さを一つの秩序に均す。
スクウェア L
1200mlは、家族分のカレーや煮込みを受け止める容量。火にかけた鍋そのままの表情で、そのまま食卓に上がる。作り置きから食卓までを、一つの器で完結させる。
ラウンドストッカー——18cm・21cm・24cm・27cm
米、味噌、ぬか床。パントリーの奥に据える円筒の器は、暮らしを支える背骨のような存在だ。
ラウンドストッカー 18cm
φ21cm・4.5Lの円筒が、パントリーに存在感を持って収まる。粉ものや乾物のストックを、蓋を開けた瞬間から生活道具として見せる容量。白の琺瑯が、棚の乱雑さを一つにまとめる。
ラウンドストッカー 21cm
18cmと24cmの間を、21cmが埋める。容量7.0L、重量1750g。中間の寸法は、迷ったときの答えになる。四つのサイズが揃えば、米・味噌・漬物と、用途ごとに使い分けられる。
ラウンドストッカー 24cm
10Lという容量は、米や大量の乾物を一括で収める器として機能する。φ27cmの円筒がキッチンの一角を占め、18cm・21cmよりひと回り大きなサイズ。白の琺瑯が、量の多さを重たく見せない。
ラウンドストッカー 27cm
容量15L。お米10kgが収まる、ラウンドストッカー最大の寸法。18cm・21cm・24cmと並べれば、パントリーに四つのサイズが揃う。
バターケース
冷蔵庫から食卓まで、バターだけのために用意された小さな器がある。
バターケース 200g用
天然木の蓋は、そのままカッティングボードとしてバターを切り分ける。外寸W15.7×D9.7×H5.5cm。冷蔵庫から食卓まで、一つの器で完結する。
バット全白——手札からシリーズ最大の6取まで
バットは、台所の万能選手だ。下ごしらえから盛り付けまで、9つのサイズが工程のすべてに応える。
バット全白 手札
シリーズ最小、手札サイズ。155×125mm、容量0.3L。薬味や漬物、ひとくちの副菜を受け止める。琺瑯は匂いが移らない。刻んだ生姜も梅干しも、同じ一枚で受け止められる。
バット全白 キャビネ
手札よりひとまわり大きい、キャビネサイズ。205×160mm、容量約0.55L。キャロットラペにも、手作りゼリーの型にもなる。小皿の代わりに、食卓の隅にもう一枚。
バット全白 21取
242×196mm、容量0.96L。下味を仕込み、そのままオーブンへ。仕込みから加熱まで、一枚で完結する。琺瑯は酸にも塩分にも強く、漬け込みの間、素材の味を損なわない。
バット全白 18取
266×212mm、容量1.25L。バットの中で、最も出番の多い寸法。肉や魚の下ごしらえから、粗熱取り、揚げ物の油切りまで。一枚あれば、台所の工程のほとんどをここに集められる。
バット全白 15取
296×235mm、容量1.75L。グラタンやパウンドケーキ、オーブンでの加熱に足る深さ。琺瑯のまま火にかけられるから、仕込みも加熱も同じ器で。洗って、また明日の下ごしらえへ。
バット全白 12取
327×245mm、容量2.5L。ラザニアも、ホームパーティーの一皿も、この一枚で焼き上げる。油はねを受け止める深さがあり、揚げ物の油切りバットとしても使える。直火もオーブンも、琺瑯なら一枚で兼ねられる。
バット全白 10取
364×268mm、容量3L。複数枚を並べても、油はねを受け止める余地がある大きさ。油を吸わない琺瑯だから、揚げたてを置いても質感が変わらない。洗えば、翌日の下ごしらえにもそのまま戻る。
バット全白 8取
413×283mm、容量5L。作り置きのおかずを、まとめて仕込む大きさ。大人数の食卓にも、この一枚で十分な量を並べられる。
バット全白 6取
493×333mm、容量7.5L。シリーズ最大、台所の主役になる寸法。重量約1.4kg。琺瑯の厚みが、そのまま道具の存在感になる。大人数の作り置きも、漬け込みも、この一枚で受け止める。
TUTU(筒)——S・M・L
円筒の器に、茶葉やコーヒー豆をそっと閉じ込める。棚に並べておくだけで、朝の支度が少し丁寧になる。
TUTU(筒) S
11.6×11.6cm、高さ9.3cm、容量0.8L。円筒形の、少量の茶葉のための器。琺瑯は匂いも湿気も通さない。蓋を開けるたび、茶葉本来の香りに出会える。
TUTU(筒) M
TUTU Sよりひとまわり大きい、容量1.0L。毎日飲むコーヒー豆の、常用の器。円筒の形は、棚に並べても、手に取っても、扱いやすい。
TUTU(筒) L
容量1.2L、シリーズ最大。まとめ買いした豆や茶葉を、この一つで受け止める。
新しい台所道具
調味料入れ、湯沸かし、油の再生。台所の細部を支える、新しい顔ぶれが加わった。
持ち手付ストッカー 角型L
167×124mm、容量1.2L。持ち手のついた、常備調味料のための器。冷蔵庫からの出し入れに、指一本かければ済む。朝の調理の、小さな摩擦を減らす道具。
アムケトル 2.0L
直径230mm、容量2.0L。IHにもガス火にも応える、琺瑯のケトル。朝、湯を沸かす数分間。ドリップの一投目も、この一つから始まる。
ポトル 1.5L
容量1.5L。ポットとケトル、二つの機能を一つに。注ぎ口は、紅茶とコーヒーの抽出に向けて設計されている。アムケトルとは別の、もう一つの朝の道具。
オイルポット ロカポ
使用済みの油を、活性炭のカートリッジで濾過する。一度に800ml、濾過できる。揚げ物のあとの油を、もう一度使える油に戻す。注ぐ、濾す、しまう。台所の静かな循環をつくる道具。
どれも派手さはない。けれど、使うたびに小さな傷や色の変化が生まれていく。それを歓迎できるかどうかが、この道具との相性を決めるのだと思う。
静かな道具の、静かな旅

知られていないことは、弱さではない。
ただ、まだ橋がかかっていないだけのことだ。
輸出品として生まれ、国内の台所の定番になり、今また、静かに世界を見つめ直す。野田琺瑯というブランドの旅は、まだ終わっていないのかもしれない。
無骨余白は、その小さな橋渡し役でありたいと思う。

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